先日、ル・テアトルで「アンナ・カレーニナ」を観劇してきました。
話の流れとしてはあの大作をよくまとめたと思いますが、全体的な印象でいくとどうにもこうにもちぐはぐで、ぶつ切れになる箇所多数のウーンという話でした。
ストレートプレイに近いミュージカルでしょうか。

正直アンナの息子への気持ちばかりがクローズアップされてしまって、妻であることの執着と圧迫、恋に対する不安と喜びなど、要するに女であることの葛藤の部分が薄くなってしまったかなという感じがします。
アンナ・カレーニナが大作たる所以は、ひとの二面性やら越えられない壁やらをぎっちり書き込んだ点に集約されると思うのですが、あの流れだと息子恋しさに会いに行っても断られて傷心のあまりウッカリ電車に飛び込んじゃったーという感じで、それに至るまでの書き込みがあったらよりよかったかなと・・・。
結構「ここは重要ではないかしら」と思っていたところ(結構ありました)(ありすぎて書けない・・・)が抜かされていて、そういったところもこのドラマを散文的にしてしまった要因の一つかなと。

物語はよく恋をして、その恋が成就するまでに重点が置かれがちですが、このお話はその後、果ては最後まできっちり描かれている作品です。
恋をして、その恋が実る。
そこから愛になる。
でもそれが思ったほど上手くいかなかったり、愛するが故のすれ違いを生んで、互いを思うあまりにその溝がどんどん広がっていき、ついには埋められないほどのものになってしまう。
恋をしてそれが実れば終着点のようにも思えますが、実際は実らせるまでの時間の数倍、あるいは数十倍の時間を今後過ごしていかなければならない。
恋が実ったことで人生において一つの結末を迎えるとしても、その先にもまだずっと道が広がっているということ。
それをどう生きていくかということ。
様々な選択肢があり、様々な生き方があり、感情や地位や時間さえもが交錯してひとの人生を彩り、時に縛っていくこと。
本という非現実の世界にのめりこむことで感じる酩酊を、この「アンナ・カレーニナ」という作品に強く感じます。
しかも年齢差、階級差、培ってきたものの差など、人間として向き合うことの苦悩もあるわけで、その点非常にリアルに身に迫るような印象を受けるのがこのお話でした。
アンナという一人の女性の生き方は破滅的だったりもうどうしようもないなと思ったりすることもあるのですが、どうして魅力を感じずにはいられない。
そういう魅力的なものを意識的にも無意識にももっているひとだったのだと思います。

今回はそうした重厚感と、合間合間に入るコメディな部分がごちゃ混ぜになってしまって、きっちりと何を伝えたいのかが伝わらなかったのが残念でした。
リアルに表すのは難しいんじゃ・・・と思っていたのですが、絶妙に表現できていたところと、「やりすぎ」と思うようなところが半々。
でもアンナとヴロンスキーが蜜月にいる間、それを取り巻く人々に人々の好奇の目、噂、嘲りなどが表れていて、残酷でシュールだけどとても面白いなあと感じました。
アンナやヴロンスキーのひと言ひとことに反応して、ウンウン頷いたりズッこけたり、時には呆れかえり、嘲笑している。
怖い!と思うけど、本人が見ていないところでは案外そんなものだったりするよな〜と思うところも匂わせ、春風さんたら、もう・・・!(キュン)
カレーニンは相変わらず最高でした。
「お前が戻ってくるなら迎え入れよう」という台詞も、とっても良かった。
彼は妻であるアンナと数秒ほどテンポが違っていて、アンナが見て欲しいときに妻の方を見れない。けれど決して思いやりのない人間ではなくて、彼なりの最大限の言葉を必死に探して伝えようとするのだけど、今度は失望したアンナがそれを受け入れられない。
そういうすれ違いが絶妙かつ悲しく空しく、そしてどこかいとおしく、見ている私はキューンとしてしまいました。

私の「アンナ・カレーニナ」に対する解釈とはかなり違っている印象でしたが、やはり主演の一路さまとヴロンスキーのヨッシー(井上芳男君)は素晴らしくて、これだけでも見に来た甲斐があったなあと思ったり。
一幕はかなり退屈で、今日はヨッシーの軍服を見に来たのかと思うほど、目の醒めるような貴公子っぷりでした。
デビューからずっと、このひとは好きだなあと見るたびに思うのですけど、今回もとってもよかったです。
ただ、原作のヴロンスキーとはこう・・・・なんというか、無意識に傲慢な部分がなかったなあと。
これはこれで好感度抜群なのですが、もって生まれたもの故に知らず知らずの間に傲慢になってる部分とか、アンナとの確執やすれ違いや愛情みたいなものをもっと書き込んでたらより魅力的な人物として映ったのではないかと思います。
あとやはり、自分達のしていることを客観的に見るシーンが一切なかったのは、この役としてかなり痛かったなという印象を受けました。
でも超ステキだった・・・・!!
キティはちょっと、というかこれはかなりどうだと思いましたが、大奥で上様やってたとは思えないカツラヤマ(漢字が出ない)さんも歌が結構イケる感じで素敵でした。

もう一度原作を読み返したいなあと思う作品だったことは確かですし、この「アンナ〜」という作品に対する解釈は本当に人それぞれだと思うので、見ておいて損はない作品だと思います。
なんというか、私の貧弱な語彙では説明できないのが切ないのですが。
ただ原作を知らないと「アレ〜?」と思うところが多いかも・・・。

26日まで。ル・テアトル銀座にて。

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